まだ食べられるのに捨てられている食べもの、いわゆる「食品ロス」。
その量は、日本では年間640万トン以上に上ります。
一方で、貧困国への食料援助量は、年間約320万トン。
世界では栄養不足に苦しんでいる人たちがたくさんいるのに、
日本ではこんなにもったいないことが起きているのは、どうしてなのでしょう?
食品ロスに詳しい東京農業大学国際食料情報学部食料環境経済学科の
上岡美保教授に話を聞きました。

 

%e4%b8%8a%e5%b2%a1%e5%85%88%e7%94%9f_2

 

—現代の日本は、外食・中食が充実しています。
1食ごとに食べたい加工品を買う非自炊派と、
調味料や食材などを買いそろえる自炊派。
どちらのほうが食品ロスは出やすいのでしょうか。

 

上岡先生
廃棄されている食料のうち、半数は野菜や果物などの生鮮食品です。
食品ロスの要因で最も多いのは、「過剰除去」。
要するに、皮を厚剥きするとか、
本来ならば食べられるはずの部分を捨ててしまうといった
調理技術の問題が原因の一つといえます。
したがって、しかるべき調理技術を身につけていくことが
家庭での食品ロスを削減することにつながると考えられます。
次に多いのは、消費期限切れなどで
手をつけずに捨ててしまう「直接廃棄」。
その次が「食べ残し」です。
直接廃棄と食べ残しは、特に単身世帯に多く見受けられます。

 

—私たちは、昔に比べて調理技術が落ちているのかもしれませんね。

 

上岡先生
特に、若い方にその傾向があります。
かつては、親から子、子から孫へと、
家庭や地域で調理の知恵や技術が伝承されてきました。
ところが、高度経済成長時代を迎え、
男女ともに働きに出るようになると、家事の時間が減りました。
子どもに調理を教えたり、地域の農業や特産物、
伝統的な食事を教えたりする時間がなくなったことで、
家庭での食の教育力は落ちています。
食の基本はなんといっても家庭にあります。
家庭の中で、家庭の味や調理技術が親から子へと受け継がれなければ、
さらに次の世代へとつながっていけませんよね。
野菜を買いすぎて冷蔵庫で腐らせてしまっている家庭もありますが、
かつては漬物や佃煮、天日干しといった保存食の知恵や技術があったのです。

 

%e4%b8%8a%e5%b2%a1%e5%85%88%e7%94%9f_6

 

—ここまで食品ロスが増えてしまった背景には、どんな事情があるのでしょう。

 

上岡先生
戦後、食の「洋風化」「外部化」が進みました。
消費者が安価な食品を求める中で、
食品産業では安価な原材料を輸入してコストを削減するなど、
食と農の距離がどんどん離れていきました。
お金を出せば食べものは手に入る。
こうした価値観が、食べものを大事にするという
意識の薄れにつながっています。

 

生産者や、調理人の顔が見えない食べものが溢れている中で、
食べものがどんな手間ひまをかけて育てられたかわからないことが、
食品ロスの引き金になっています。
生産者側や提供者側はそうした情報を伝える義務がありますし、
その情報を受け取る消費者側にもリテラシーが必要です。
農家さんの手間ひまを身をもって知る農業体験は、
意識に変化が生まれ、生産者と消費者が互いに
歩み寄るきっかけにもなる有効な手立てです。

 

—僕らがまず目指している家庭の食品ロス削減は、
将来的に世界の食品ロス削減につながりますか。

 

上岡先生
世界の食品ロスをなくすためには、段階を踏むことが必要です。
企業側は、消費者ニーズに応えようと、
売り切れないように過剰に生産したり、
季節はずれで栽培できない野菜を輸入したりしています。
高度経済成長時代、私たち消費者が求めたからこそ、
大量生産・大量消費の社会になったと言っても過言ではありません。
ならば、私たちが変わることで状況は変えられるはずです。
食品ロスを削減することで、たとえば、無駄な輸入を減らし、
食料自給率が下げ止まることにもつながります。

 

—エコバッグは、エコを意識しなくても、
「おしゃれ」とか「使いやすい」といった理由で使っている人が多いと感じています。
生活者がエコバッグを習慣化させたからこそ、
店はレジ袋の有料化に踏み切ることができました。
順序が逆だったら、レジ袋が有料の店では客が減ってしまいますよね。

 

上岡先生
そうですね。そういう視点では、サルベージ・パーティは
可能性を秘めた活動だと思っています。
みんなで集まり、家庭で余った食品をおいしく食べ、おしゃれで、楽しそう。
「楽しさ」は、とても大事です。楽しくなければ続きませんから。
誰かと一緒に食べる「共食」することも食育の一つの大きな課題となっています。

 

—僕らも楽しさを大切にしています。
隣の人が持ってきた食材から台所を覗き見るような感覚になったり、
「その食品はうちでも余る!」という共感だったり、
シェフがどういう料理に変身させてくれるのかというワクワク感だったり。

 

上岡先生
サルパのように友人同士や職場の仲間などで集まって
食事をともにできる場ができるのはいいですね。
かつて地域では、農業に関わる祭りや行事が行われてきました。
そこで、おばちゃんたちが寄り集まって料理を作り、
次の世代へも受け継がれてきたのです。

農業が縮小し、地域コミュニティが希薄になり、
地域食や郷土食が継承されなくなっている今、
みんなで調理をしながらお年寄りが若者に調理の知恵や技術を教える
世代間交流の場としてのサルパの役割もあるでしょう。
共食の場が減っている現代だからこそ、
サルパには多様な可能性が秘められていると思っています。

 

%e4%b8%8a%e5%b2%a1%e5%85%88%e7%94%9f_5

 

(取材記事_柏木智帆)

 

2016-11-30